タカ渡りコアユ散る湖北の秋

雲の合間をタカが滑空していく姿を観察中のサム山岡さん。愛用の双眼鏡は100年以上前に製造されたドイツ製。詳しくは小誌06号を、ぜひ御覧ください
雲の合間をタカが滑空していく姿を観察中のサム山岡さん。愛用の双眼鏡は100年以上前に製造されたドイツ製。詳しくは小誌06号を、ぜひ御覧ください
空ではタカが渡り、水の中ではコアユが産卵を終え、浜辺に打ち上げられる
空ではタカが渡り、水の中ではコアユが産卵を終え、浜辺に打ち上げられる

 冒頭の写真を撮影したのは、2010年のちょうど今頃です。琵琶湖の南に位置する小高い山の頂上で「タカの渡り」を観察後、湖西の浜辺に移動し、サム山岡さんと夕マズメの釣りを楽しみました。この日は運よく巨大なハスやキレイなシルエットで引きの強いバスがたくさん釣れて、秋の浜辺を満喫できました。

 

 あれだけ暑かった夏も次第に終わり、9月末になると、琵琶湖は急速に秋が深まります。空ではタカが大陸に向かい渡っていき、水の中では秋産卵の魚たちの生命の営みが行われます。琵琶湖で独自の生態を持つに至ったコアユは海産アユとくらべると産卵が早く、9月末から10月の初旬頃に一斉に接岸し、湖岸の浅瀬や流入河川で産卵し、やがて短い一生を終え、波打ち際で漂います。

 

 昨年のこと。何年か振りに、産卵を終えたコアユが大量に浜辺に打ち上げられ腐敗していました。「久しぶりやんか!」と嬉しくなり写真をいっぱい撮っていたら、「この魚は何? なんでたくさん死んでるの」と、たまたま通りかかったトレッキングツアー中らしい御婦人方に心配そうな顔をして尋ねられました。たくさん魚が打ち上げられて腐敗臭もしているので、不安になってしまったのでしょう。「大丈夫ですよ、むしろ喜ぶべきことです、産卵がうまくいったので、一生を終えたんです。この臭い匂いは、琵琶湖の豊かさを象徴するいい香りなんですよ!」と説明すると、みなさん笑ってくれました。

 

 本来の琵琶湖は、毎年このような風景が繰り広げられていました。私が琵琶湖に通うようになった1980年代後半からでも、秋になる度にこの景色に出会ってきました。琵琶湖中のありとあらゆる魚食魚が一斉にコアユを食べに浅瀬に乗り込んでくるので、ルアー釣りには最適のシーズンなんです。バスはこの時期には傷1つない、口の小さいタイプのが釣れたりしますし、異常に引きの強いケタバス(ハス)や巨大なニゴイも釣れるので、何とも楽しいのです。それも表層限定のプラッギングで釣れるのですから、面白くないはずがない。湖北プラッギングのハイシーズンが、いよいよ始まります(くどいようですが、その辺りについては小誌06号を、ぜひ御覧ください)。

 

 ところで昨年あれだけ産卵がうまくいったはずのコアユですが、昨年12月頭からの氷魚漁は、記録に残る不漁となりました。大量に卵を産めたはずなので、びっくりしてしまいました。何故だったのでしょう? 浜辺に打ち上げられたコアユの数を見て、あれだけ喜んだのに、よもやの展開でした。人為的なことが理由ではないと思いたいです。

 

 今年もコアユの産卵がうまくいき、今度こそ氷魚もたくさん獲れてほしいです。豊かな琵琶湖の復活には、秋のコアユと春のホンモロコの産卵が健全であることが、非常に重要だと感じています。